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2017年1月10日火曜日

空中でネズミを追いかけるネコ

……いくつかの公文書や回想録によると、1970年代半ば、チトー(ユーゴスラヴィアの大統領)は、チトーの側近たちはユーゴスラヴィアの経済が壊滅的であることを知っていた。しかし、チトーに死期が迫っていたため、側近たちはかたらって危険の勃発をチトーの死後まで先延ばしにすることに決めた。その結果、チトーの晩年には外国からの借款が休息に膨れ上がり、ユーゴスラヴィアは、ヒッチコックの『サイコ』に出てくる裕福な銀行家の言葉を借りれば、金の力で不幸を遠ざけていた。1980年にチトーが死ぬと、ついに破滅的な経済危機が勃発し、生活水準は40パーセントも下落し、民族間の緊張が高まり、そして民族間紛争がとうとう国を滅ぼした。適切に危機に対処すべきタイミングを逃したせいだ。ユーゴスラヴィアにとって命取りとなったのは、指導者に何も知らせず、幸せなまま死なせようという側近たちの決断だったといってもいい。

これこそが究極の「文化」ではなかろうか。文化の基本的規則のひとつは、いつ、いかにして、知らない(気づかない)ふりをし、起きたことがあたかも起きなかったかのように行動し続けるべきかを知ることである。私のそばにいる人がたまたま不愉快な騒音を立てたとき、私がとるべき正しい対応は無視することであって、「わざとやったんじゃないってことはわかっているから、心配しなくていいよ、全然大したことじゃないんだから」などと言って慰めることではない。……(文化が科学に敵対するのはこの理由による。科学は知への容赦ない欲動に支えられているが、文化とは知らない/気づいていないふりをすることである)。

この意味で、見かけに対する極端な感受性をもつ日本人こそが、ラカンのいう〈大文字の他者〉の国民である。日本人は、他のどの国民よりも、仮面のほうが仮面の下の現実よりも多くの真理を含むことをよく知っている。(ジジェク『ラカンはこう読め』「日本語版への序文」)

わたくしは日本に住んでないので勝手なことを言わせてもらうが、日本は1970年代半ばのユーゴスラヴィアじゃないのかね。

もちろん国の規模が違う云々の話をする人はいるだろうが、長期国債金利が上がってしまったら一発だよ。1000兆円の借金の金利がたとえば4%になってしまったら金利支払いだけで、40兆円だ。



平成28年度一般会計予算の歳出・歳入



野口悠紀雄氏が数年前から何度もくり返しているが、国債金利4%になってしまう可能性を思い遣るのは、極度の心配性のせいではけっしてない。所得税・法人税・消費税・その他で50~60兆円しかないのに、国債金利だけで40兆円支払わなくてはならないってのは、ま、明らかに「国家破産」だよ。救いの手は、急遽、消費税30%にするぐらいかな、あわせて社会保障費半減とか。

やあ、確認のために調べてみたら違った。2015年の時点で、野口氏はこう言ってるな。

「今一般会計の国債費の利払いは10兆円くらい。最近の10年国債の利回りは0・5%程度だから仮に2%くらいになったら4倍の40兆円くらいになる。しかも、市場金利が上がってから4、5年で既発債の金利はおおむね上昇後の金利に入れ替わってしまう。それはとうてい耐えられないだろう」(野口悠紀雄

じゃあ4%の金利になればどうなるんだろ・・・

いやいや架空の話だよ、絶対に起こるわけではない。神風ってのもあるしな。

…………

ここで国民所得推移をみてみよう。


一人当たりGDPランキングの推移


この図をみると(為替等種々の絡みがあるので単純にはいえないが)、2009年あたりからすくなくとも一時的に回復して、だがもとの下り坂に戻ってしまっている。でも22位でもう下げ止まってもいいんやないか。下には碌な国はないぜ。もっとも韓国とか台湾にはそろそろ上に上がってもらうさ。

いずれにせよ、今の日本の問題は、10年後の日本が今よりよくなっているとは殆ど誰も信じていないことだろう。

…………

深尾光洋氏の「日本の財政赤字の維持可能性」(2012 年 6 月)とは黒田日銀が金融緩和政策の「博打をうつ」前の論文だが、すこぶる理論的に明解な、とても印象に残る論文だった。深尾氏はこの当時、《消費税を 2014 年から 2023 年までの 10 年間、毎年 1 月に 2 ポイントずつ引き上げ、23 年の 1 月以降 25%にするケース》のシミュレーションをしている。だがいまはもはやそれだけではどうにもならない。

◆「日本の財政破綻シナリオ」
(1)選挙民を恐れる政治家が増税を先延ばし続けて政府の累積赤字が拡大する。この結果、金利上昇による利払い負担増加のリスクが蓄積されていく。

(2) 日本の金融資産の大部分を保有する 50 歳以上の高齢者層も、 政府に対する信頼を徐々になくし、円から不動産、株式、外貨、金等に資金を移動し始める。

(3)長期国債価格が下落し、長期金利が上昇を始める。

(4)新規発行や借り換え国債の利払い負担増加に直面した政府が、発行国債の満期構成を短縮し、主に短期国債で赤字をファイナンスするようになる。日銀がゼロ金利政策を続けている間は、 政府の利払い負担は増加せず、 財政破綻を先延ばしできる。 しかし同時に、国債の満期構成の短期化は、将来の短期金利の上昇で、政府の利払いが急増するリスクを増大させる。

(5)政府の財政悪化に伴い、上記(2)の資金シフトが加速する。特に高齢化に伴う貯蓄率の低下や財政赤字の拡大によって経常収支が赤字化すると、大幅な円安になるリスクが高まる。実際に円安、株高が発生すれば、景気にはプラスとなりバブル的な景気回復を達成する可能性もある。そうなればインフレ率も上昇し始める。景気回復は税収を増大させ、財政赤字を減少させる。この時点で大幅な増税と赤字の削減が出来れば、財政破綻は避けられる可能性がある。

=>この場合、政府はタイミングの良い増税で健全化を達成できる。

しかし政府が増税に躊躇すると、以下のシナリオに突入する。

(6)日銀はインフレ率の上昇に対して金利引き上げによる金融引き締めを行うが、これで政府の利払いが爆発的に増大し、政府の信用が急激に低下する。

(7)政府が日銀の金融政策に介入して、低金利を強制したり、国債の買い取りを強制したりすれば、インフレがさらに加速し、国債価格は暴落する。

(8)金利の急激な上昇で長期国債を大量に保有する銀行が、巨額の損失を被り、政府に資金援助を要請する。

(9)政府が日銀に国債の低利引き受けを強制する場合には、政府は利払い増加による政府債務の急増を避けることが出来る。この場合は、敗戦直後のインフレ期と同様に、政府債務を大幅に引き下げることが可能で、政府は財政バランスの回復に成功する。しかし、所得分配の上では、預金や国債、生命保険、個人年金などの金融資産を保有する人々が、その実質価値の喪失で巨額の損失を被る。

=>この場合、政府はインフレタックスにより財政を健全化できる。しかし金融資産の実質価値の大幅低下により、生活資金に困る多数の人々を生み出す。(日本の財政破綻シナリオ)

黒田日銀の異次元緩和によって今ではかなり様相が異なる項目もあるにしろ、大きな流れは、こうやって財政破綻に向うのは今でも変わりがないだろう。深尾論文発表当時は、東京大学金融教育研究会の「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会なるものの議事録も頻繁に公開されていた。こっちのほうは、 いつ財政破綻してもおかしくない状況でまた回避できようもないのだから、破綻回避などと「悠長な」ことを思考するのはやめて、「その後」を考えようというエライ経済学者たちによる研究会であり、財政破綻後の日本のあり方を研究しようというものだった・・・

いささか不謹慎な話題かもしれませんが・・・。――旧ソ連が崩壊し、ロシアでは、それまで全国民に医療サービスを政府が提供する体制が実質的に崩壊しました。また、ソ連崩壊後の時期に死亡率が急上昇しました。……[送り状(2)]http://www.carf.e.u-tokyo.ac.jp/research/zaisei/ScenarioCrisis2904pdf.pdfーー(「財政破綻後の日本経済の姿」に関する研究会」)

日本にとって最もよいのは……

地球にとってもっともよいのは、三分の二の人間が死ぬような仕組みをゆっくりとつくることではないでしょうか。(ジジェク『ジジェク、革命を語る』)

…………

現在の日本は、「トムとジェリー」の、《猫が、前方に断崖があるのも知らず、必死にネズミを追いかけている。ところが、足元の大地が消え去った後もなお、猫は落下せずにネズミを追いかけ続ける》状況であると、〈あなた〉は疑ったことはないか?

たとえばニュートンの有名なリンゴは重力の法則を知っていたから落ちたのだ、などという言い方は馬鹿げているとしか思われない。しかしながら、仮にそうした言い方がただの無内容な洒落だったとしても、われわれは、そうした発想がどうしてこれほど頻繁にコミックスやアニメの中に登場するのか、という疑問をもたねばならない。

猫が、前方に断崖があるのも知らず、必死にネズミを追いかけている。ところが、足元の大地が消え去った後もなお、猫は落下せずにネズミを追いかけ続ける。猫が下を見て、自分が空中に浮かんでいることを見た瞬間、猫は落ちる。まるで<現実界>が一瞬、どの法則に従うべきかを忘れたかのようだ。猫が下を見た瞬間、<現実界>はその法則を「思い出し」、それにしたがって行動する。

こうした場面が繰り返し作られるのは、それらがある種の初歩的な幻想のシナリオに支えられているからにちがいない。この推量をさらに一歩すすめるならば、フロイトが『夢判断』の中で挙げている、自分が死んだことを知らない父親という有名な夢の例にも、これと同じパラドックスが見出される。アニメの猫が、自分の足の下に大地がないことを知らないがゆえに走り続けるのと同じように、その父親は、自分が死んだことを知らないがゆえに今なお生きているのである。

三つ目の例を挙げよう。それはエルバ島におけるナポレオンだ。歴史的には彼はすでに死んでいた(すなわち彼の出る幕は閉じ、彼の役割は終わっていた)が、自分の死に気づいていないことによって彼はまだ生きていた(まだ歴史の舞台から下りていなかった)。だからこそ彼はワーテルローで再び敗北し、「二度死ぬ」はめになったのである。ある種の国家あるいはイデオロギー装置に関して、われわれはしばしばそれと同じような感じを抱く。すなわち、それらは明らかに時代錯誤的であるのに、そのことを知らないためにしぶとく生き残る。誰かが、この不愉快な事実をそれらに思い出させるという無礼な義務を引き受けなくてはならないのだ。(ジジェク『 斜めから見る』)

やあ、すまんね、脅かして。

こういったことは心配してもどうにもならないので、日々を楽しく送ってたらいいさ。ま、そんなことは言わないでも、冒頭のジジェク文のいうように、究極の「文化」の国の国民だからみなさんやってるのだろうけど。

すなわち、知らない(気づかない)ふりをし、起きていることをあたかも起きていないかのように行動し続けるべきかを知っている「上品な民」だからな。

国家破綻したって都市は破綻しない。戦後のいわゆるハイパーインフレ期は、元気のいい若いもんが大儲けしたのさ、闇市とかでね。

その当時の荷風の日記を読んでみると面白いよ、預金封鎖とかね。一種の「小さな革命」があるってだけさ。

そういえば最近大前研一が「平成の徳政令」って言ってたな、

最悪の事態を避けるためには、政府が“平成の徳政令”を出して国の借金を一気に減らすしかないと思う。具体的な方法は、価値が半分の新貨幣の発行である。今の1万円が5000円になるわけだ。

 そうすれば、1700兆円の個人金融資産が半分の850兆円になるので、パクった850兆円を国の借金1053兆円から差し引くと、残りは200兆円に圧縮される。200兆円はGDPの40%だから、デフォルトの恐れはなくなる。そこから“生まれ変わって”仕切り直すしか、この国の財政を健全化する手立てはないと思うのである。

 その場合、徳政令はある日突然、出さねばならない。そして徳政令を出した瞬間に、1週間程度の預金封鎖を発動しなければならない。そうしないと、日本中の金融機関で取り付け騒ぎが起きてしまうからだ。(大前研一「財政破綻を避けるには「平成の徳政令」を出すしかない」2016.11

いやあ、カワイイもんだよ、この程度で解決できちゃうなら。これが平成の「神風」ってやつだったら、上の記述は大袈裟すぎだね、シツレイした。